夜空 <前編>






艦内という非常に狭い中でデートをする場所なんて、限られている。
だけど、今は少しだけ選択肢が増えた。







今はオーブのモルゲンレーテで、AAの補給や整備をし、
僕はM1の開発を手伝っている。
常に敵襲に怯えてきた今までよりは少し安全で、
なんとなく平和な雰囲気が漂っている。
こういっては失礼かもしれないけど、
いつも眉間にしわの寄っているあのバジルール中尉が、
この間通路で欠伸をしているのを見てしまったくらいだ。
本当はまだ戦争中なわけだから、こう思っては不謹慎なのはわかってるけど、
少しこの柔らかな雰囲気が気に入っていた。





ランチを終えた後、フラガ少佐はスカイグラスパーの整備やオーブ代表との会議出席のために、
M1開発の僕とは別方向へと行かねばならない時だった。


「0030、D地区の倉庫横の木の下に集合。命令を復唱せよ、キラ・ヤマト少尉。」
「何言ってるんですか?」
「復唱せよって言ってるだろ?」
「……0030、D地区倉庫横の木の下に集合。」


僕が渋々と復唱するのを聞き終えると、フラガ少佐は満足そうに笑みを浮かべ、
じゃ後でな〜、とヒラヒラ右手を上げ去っていった。



「っもう…」


何が復唱せよ、なんだよ。と文句を言いながらも、少佐との約束が出来たことで
嬉しくなっている自分がいるのを認めずにいられなかった。
モルゲンレーテに入ってからというものなかなか少佐と逢う時間が少ないのだ。AAにいた頃とは
違って、僕たちの仕事場が違うことや、少佐には整備のほかにも艦内の最高士官という立場から
難しい会議なんかにも出席しなければならなくなったからだ。
今はモルゲンレーテ敷地内にある施設の部屋を使っていて、
当然少佐と僕の部屋は別々にあるわけで。
そして、大企業なだけあって、昼夜問わず常に人の出入りが多い。
つまりは…その、夜中にこっそり少佐の部屋に行くこともままならなくて…




ピーッ。



!!
パソコンのエラー音で、我に返った。
横からシモンズ女史が「どうしたのキラ君?」とこちらを見る。

「っな、なんでもないです、すみませんっ」
「・・あら、そう。」

キラ君がエラー音出すなんて珍しいわねと呟いて、シモンズ女史が再び自分の作業へ戻っていっ
たのを見届けてから、僕はふぅと息をついた。
M1の開発という重大な仕事の最中に、少佐のこと考えながらだなんていけない、と思い
僕は今度は真剣にディスプレイと向き合った。
でも、やはりこの後の約束のことを思うと、どうしても浮き足立ってしまって…






…あぁ今日は何回エラー出しちゃったんだろうな。



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