悩める青少年 8
キッチンに戻り、オーブンのスイッチを入れた。
パイは4、50分で焼けるはずだから、ちょうど食事が終わった頃に出来上がるだろう。
そして、コンロにも火をつける。カレーをかき混ぜていると、
こちらに向かって来るフラガ先生のスリッパの足音がやけに耳に響いた。
「お?いい匂い。カレーか。キラが作ってくれたの?」
フラガ先生が、僕の隣に来てお鍋の中身を覗き込む。
先生の少し癖のある金色の髪が、僕の頬に触れるか触れないかの至近距離。
体に染み付いてるタバコの匂いが、僕の鼻をくすぐった。
「キラ?」
僕が何も返事をしないから、先生が不思議そうに顔を覗き込ませる。
ああ、もうそんなに顔を近づけないで。
僕はさっきからまともに先生の顔を見ていない。本当はすごく見たいのに。
「俺のために作ってくれたの?コレ。」
僕は首を縦に振る。ぎゅっと目を瞑る。
「アリガトv」
先生の唇が僕のそれに触れた。
「っ!!!先生っ!///」
「味見☆うーん美味いぞ!」
片目をウインクさせ、オチャらけるフラガ先生。
さっきまで恥ずかしくてフラガ先生の顔をまともに見れなかったのに、
フラガ先生のウインクで僕は懐柔されてしまったみたいだ。
「っもうっ。すぐ用意しますから、座って待っててくださいっ。」
アハハと笑って、先生はテーブルに着いた。
「お待たせしました。どうぞ、あ、あの。お口に合うといいんですけど…」
そういって僕は先生にカレーを差し出した。
先生はじっと僕を見つめたままだった。
「・・・??・・・あ、あのカレー嫌いでした?」不安になって聴いてみる。
もしかして嫌いだったらどうしよう。僕はエプロンの裾を握り締めた。
「あっ!」
エプロンを握り締めていた手をフラガ先生に取られた。
「カレーは好きだよ、ま、キラの作ったものなら嫌いなものでも食べられそうだな。それと…」
先生の指が、僕の指に絡んできた。
「それと?」何か気に障ることがあったのだろうか?恐る恐るたずねてみる。
「…それと、なんかキラが奥さんみたいでいいなーってv」
「なっ///奥さんってっ!!!」
僕は身を引こうとしたけど、それよりも早く、先生に引き寄せられてキスをされてしまった。
「もう一回味見v」まだお互いの息が感じられる距離で先生が囁く。
「あ、味見はもういいですから、早くカレーを食べてくださいっ。」
冷めちゃいますから、と無理矢理言い訳がましく言って僕は先生から離れた。
* * * *
「片づけが終わるまで、リビングでテレビでも見ていてください。」
そうキラに言われ、俺はソファに腰をかけた。
しかし、見たくもないテレビ番組なんかより…と俺はキッチンで洗い物をするキラの後姿を眺める。
学校では、仲のよい友達がいるどころか、クラスメートともあまり話を交わさないキラ。
いつも後ろのほうで、冷めた無気力な目で周りを見ている様子だった。
いつからだろう?そんなキラの瞳を「冷たく無気力なもの」と思っていたのが、「寂しい瞳」だと感じるようになったのは。
ある放課後、校舎裏でノラ猫とじゃれあうキラを見た。
ネコに向けられるキラの笑顔。あんな顔して笑うのだと、担任であるのにその時初めて知った。
そのときの笑顔が忘れられず、それ以来俺の目はいつしかキラを追うようになっていった。
もちろん、担任教師として、特定の生徒一人を特別扱いしてはいけないことくらいわかっている。
そして、生徒に恋愛感情を抱くなど、絶対にあってはならないことなのだ。
それでも、俺は自分の感情を、教師としてではなく、
俺という個人としての感情を抑えることが出来なかったのは、若さゆえなのか?
「どうかしたんですか?難しい顔して。」
キラがトレイをもってこっちに向かってきた。
「あ、いやちょっと考え事だよ。それより、なに?ソレ。」
「食後のデザートです。どうぞ。」
差し出されたのは、アイスクリームが添えられたパイと紅茶。
「気を使わせて悪いな。さっきのカレーだけで充分ご馳走になったのに。」
なんだか手ぶらで来てしまったことに今更だがばつが悪いと思った。
「い・いえ、ぼっ僕が、食べてもらいたかったから、いいんですっ。」
照れた様子で、からのトレイを胸に抱くキラ。
「もしかして、コレもキラが作ったのか?」
「は、はい。お菓子作るの好きなんです。」
顔を真っ赤にして俯くキラの腕を引っ張り、自分の隣に座らせた。
キラの髪に一度キスをしてから、デザートを口にする。
美味い…お世辞抜きで、だ。
実は結構甘党な俺。いい年をした独身男が甘党だなんて恥ずかしいんだが、
ケーキをワンホール一気に平らげるのは朝飯前くらいに、好きなのだ。
だから当然、俺は今までいろんな店のケーキを食ってきたが…こんな美味いパイは初めてだった。
気づけば、あっという間に食べ終えてしまっていて、紅茶を一気に飲み干した。
ふと横を見ると、指が白くなるくらい強くトレイを胸に抱き、心配そうな顔で俺を見つめるキラがいた。
今にも泣き出しそうなキラ。そりゃそうか、俺が無言でパイを食べてるんだから。
キラのことだから、きっと俺がマズイと無理をして食べてるとでも思ってるんだろう。
可愛いやつだなぁ…
「キラ。」
「はっはいっ。」
俺が名を呼ぶと、キラはびくついたように返事をした。
「このかぼちゃのパイ、オカワリある?」
キラの瞳が、一段と大きく開かれ、すぐに笑顔になった。
「はいっ!ちょっと待っててくださいねっ!」
転びそうになりながらキッチンへ走るキラ。
キラの行動の一つ一つが、俺を癒してくれる。
結局、パイはすべて平らげてしまった。そして気づく。俺はまだ「美味い」の一言も言っていないことに。
「美味かったよ、キラ。ありがとう。」
ありきたりな言葉だったけど、シンプルな言葉ほど、相手にストレートに伝わるものだと思う。
俺はキラの頭を引き寄せ、髪にキスをしながら言った。
「喜んでもらえて、ぼ、僕も嬉しいです。」
俯いてはいるが、俺のキスを受けながらキラが言う。
「俺、実は甘党なんだ。」
「ぷっ。今更言わなくっても分かりますよ。あれだけパイを一気に食べるのを見たら。」
「なぁ最後にもう一つデザート食べてもいい?」
「?え?もうパイは…!!!!」
キラの唇を俺ので塞ぐ。
「んんっ!」
不意打ちのキスに、キラが苦しいと俺の胸を叩いて訴えた。
ちょっとだけ唇を離してやる、でも両の口から出る銀の糸で繋がったまま。
「ん〜甘いvもっといい?」
「せんせっ!!!」
OKの返事をもらう前に俺はキラの甘い唇にかぶりつくようにキスをする。
「んっ・・・」
歯列を割り舌を絡め取って、お互いの唾液を交換し合う。
こんな甘いもの、世界中どこを探したってない。
もっと深くキラの味を知りたくて、俺はそのままキラをソファに押し付けた。
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ふー、やっとココまでたどり着いたよ…長かった…ってかココからが本番なんだよね。
なんかムダに長くなりすぎなんだよね…いつも。
キラたんもなんだかんだ言ってムウさん大好きですし…書いてるこっちが恥ずかしいですわ。
でも結構こういう甘甘なの好きです実は(爆)
続く。
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