行く先 6
「・・キラっ・・・」
「ぁぁ・・・んッ・・・ア」
絡まる指先。
これ以上無いくらいに繋がる下肢。
耳に感じる互いの吐息。
指とは比べ物にならないその圧迫感に苦しさと快感。
それから満たされた、心。
律動と共に、何度も名前を呼ばれる。
荒い息と共にそれは囁かれて、
貴方も僕を感じてくれているということを、
遠い意識の中で思った。
いつからなのだろうか、自覚も無いまま貴方を好きになって行った。
気づけば、
視線が追うのは金色の髪や広い背中や、心地良い低音だった。
名家と言われるやや窮屈な環境の中で、
貴方の天真爛漫さに憧れを覚えた。
同じ視線で見てくれる、貴方の青い瞳に吸い込まれていた。
そんな貴方と、こんな関係になるなんて思っても見なかったけど。
「キラ」
名前を呼ばれ落ちてきた口付けに、僕は瞼を上げる。
貴方の眼差しに堪らなく心が切なくなって、
肩に掛けていた手を、貴方の首に廻した。
近くなった耳元に、気持ちを告げる。
「・・っ・・ム、ウさんっ・・・好き、で・・すっ」
律動が、ひたと止まった。
中の熱が一箇所で止まったことに焦れて、無意識に腰が揺れる。
それが引き金となったのか、膝裏を掬い取られより接合が深くなって
律動が再開された。
「アァっ・・あ、ア、ア・・・ンッ・・」
「キラ」
何度も何度も飽きずに僕の中を行き来する貴方。
摩擦熱が僕と貴方の境目を溶かす。
この熱にずっと溺れていたかったけれど、虚しくも限界は訪れた。
「ァあ!・・も、うッ・・ア、、あ、・・ダメェッ・・」
これ以上は無いほどに、貴方が近くに来た。
内壁を灼熱に押されて、僕は溜まらず欲望を吐き出した。
少し遅れて貴方の飛沫を感じる。
意識が遠のくその直前に囁かれた言葉を、僕は一生忘れない。
『愛してるよ、キラ・・・』
ちゅんちゅんという小鳥のさえずりと、
朝日の光で意識がぼんやりと覚醒していく。
「・・ん・・」
「・・起きたか?キラ」
大好きな低音と、僕の髪を撫でる大きな手のひら。
朝、目を開き、その一番最初に目に入ったものが
大好きな貴方の青い瞳だなんて、こんな幸せどこを探してもないだろう。
昨晩の契りのことを思い起こすと、
恥ずかしくて堪らなくなるけれども、今までとは比べ物にならないくらいに
貴方を思う気持ちがあふれ出てくる。
撫でられる手がとても心地良くてずっとこうしていたかったけど、
僕はやらねばいけないことを思い出し、
名残惜しい貴方の温もりを離れようと身を起こした。
「あ・・・朝餉の用意、すぐしまっ!!・・痛ッ・・・」
鉛のように重い下肢とそこからの痛みに思わず、再び布団の中へ倒れこんだ。
「こら、無理するなって・・ゆっくりしてろ」
そういってムウさんは僕にもう一度布団を掛けなおすと、
自分はお勝手へと行ってしまった。
昨日よりも更に愛しく思う、その広い背中を僕は目で追う。
その大きな背中を見つめながら。
今頃、みんなどうしているんだろう。
日登家に来てまだ1ヶ月ちょっとしか経っていないのに、
仕事を紹介してくれたバルトフェルドさんに悪いことをしてしまった。
何も知らない僕にいろいろと教えてくれたディアッカにも一言も告げずに出てきてしまった。
僕の家族はこれで僕の行方を知ることは難しくなった。
それに、次男と言えども、名家である日登家の子息を奪ってしまった。
いろんなたくさんの人に迷惑をかけてしまったけれど、
それでも僕はムウさんといることを選んだのだ。
そして、ムウさんも僕を選んでくれた。
これは紛れも無い事実。
そんな取り留めのないことを考えているうちに、ムウさんが戻ってきた。
右手には湯気の出ている桶、左手には手ぬぐい。
「体拭いてやるよ、気持ち悪いだろ」
そういってムウさんは布団を剥ぐ。
明るいところにさらけ出され、恥ずかしかったけど動くのも辛かったので
されるがままになった。
下肢には昨晩の残滓がこびり付いていて。
昨日ムウさんを受け入れた場所にも手が伸ばされる。
単に身体を拭かれるだけだと思っていたのに。
「アッ!!…やッ・・」
そこに吸い付くムウさんの唇の感触。
体温が一気に上昇するのがわかった。
「きちんと出しとかないと辛いから」
そう言ってムウさんは何度も僕のそこへ唇と落とし、
昨晩の名残を吸い出した。
身体を綺麗にしてもらった。
途中熱くなる身体に僕の欲望は正直に形を変え、
ムウさんに慰めてもらった。
貴方に触れたところから、体が熱くなり貴方を欲してやまない。
それでも貴方の温もりを感じていたかった。
くいと、ムウさんの浴衣の袖を引く。
桶を片付けに行こうとしていたムウさんは、再び膝まずき僕の顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「・・・そばに・・いてください」
一瞬大きく目を見開いたけれど、すぐにその瞳は優しく微笑む。
そして僕の額に軽く口付けを落とすと、
布団の中へと入ってきた。
貴方の胸に抱きこまれる。
兄弟でもないし、ましてや男同士なのに一つ屋根の下に暮らすことに
周囲から冷ややかな目でみられるかもしれない。
それでも、そんな世間の冷たさなんて
なんの痛みにもならない、暖かさがここにある。
この先、僕たちは一体どうなるのか、
それは全く見当も付かないことだけど。
そろそろ散り始める桜の花びらのように、
僕たちの行く先はどこへともなく――。
完
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あとがき
ついにココまでこぎつけました。
「ハァハァ祭り」という欲望垂れ流しのお祭りに、こんな暗いお話を
捧げてしまって申し訳ありませんが、一度やってみたかった時代物。
『時代物』と書くには、あまりにも時代背景がはっきりせず、また文章が稚拙ですが(汗)
私としては、明治あたりを熱望です。
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