好きなのは








「…はぁ…」

Andy'sCafeが休業となってから既に一週間がたっていた。
俺は毎日仕事帰りに店へとやってきたが、それは1週間前と同じ、シャッターの下りた店。
実を言うと、店に立ち寄るのは仕事帰りだけではない。
営業で外回りの合間だとか、昼休みだとか。
休日では、煙草を買いに出るついでだと自分に言い訳をし、店の前を何度も往復してみたり。
行く時間はまちまちであったが、そのどの時間帯でも、明かりは無かった。
店も。もちろんキラの部屋にも。



今日も仕事帰りによってみたが、相変わらずの閉ざされたシャッター。
午前中に外回りしたついでに見たときとなんら変わりは無かった。
俺はまた、家へと向かう。
その途中で、なんとなくAndy'sCafeと外観の似た喫茶店を見つけ、
思わず入ってみた。


木目調のテーブルと椅子。
絶え間ないサイフォンの音。
ゆったり目のジャズの変わりに、クラシックピアノの音楽。
見た目は、さほど変わりは無い。

「いらっしゃい。」

カウンターに立つのは、ひげをたくわえた初老の男だった。
俺は”いつも通り”窓際にある奥の席へ腰を掛けた。
「なんにするかね?」
カウンターにいたまま、ひげのマスターが尋ねてきた。







運ばれてきたブラックを口にする。
・・・単なる苦くて黒い飲み物だった。
苦さの中にある甘さも、つい嗅いでみたくなるあのコーヒーの香りも
今の俺には何も感じられなかった。
マスターには悪いと思いながらも、店を出た。
カップには黒い液体が残ったまま。












「じゃ、この後出まして、直帰しますんで。」

そういって俺は会社を後にした。
得意先を2,3廻る。
思っていたよりも順調に取引が進んだおかげで、いつもより大分早く仕事を終えることが出来た。
Andy'sCafeが休業してから…キラと会えなくなってから10日が過ぎた。
今日も、閉まってるんだろうという諦めと、もしかしたらという少しの期待を胸に、
俺は黄昏時の街を歩いていて、店へと向かった。
賑やかな通りより一本入った道へと、角を曲がる。









「っ!!!」





店の前に人影があった。
シャッターを上げようとしている。
ヘビースモーカーの肺には、すこしの距離でも走るのは些かきつかったが、
俺は走った。




「キラっ!!!」


「・・あ、フラガさん、今開けま・・・!!」




無意識に、キラを抱きしめていた。
夜の街が賑わうのには早い時間ではあったが、
人通りはそこそこあったのには一切構わずに。


「フ、フラガさんっ!?あ、あのっ・・」

「逢いたかった。」


先ほどまで、俺の腕の中でジタバタしていたキラが急におとなしくなった。
俺は更に続ける。




「キラが淹れたのじゃないと、飲めないんだ、コーヒー。」




ぷっと吹き出すキラ。
…今のセリフはちょっと子供っぽかっただろうか?
些か不安に感じたのもつかの間。




「…僕も、フラガさんにコーヒーを淹れないと、一日が始まりません。」



キラの腕が背中に廻され、俺は更にきつく抱きしめた。













「…で、何で10日も店閉めてたんだよ?」

いつもの窓際の席ではなく、今日はカウンターに座って、その先にいるキラに問いかけた。
どうぞ、と10日前と変わりなく、コーヒーを差し出しながらキラは言った。


「アンディさん…マスターが、突然豆を買出しに行くから付いて来いって…」
いつも急に言うんです、とやや困り顔のキラ。
ブラジル、コロンビア、ペルーにキューバ、ハワイ…と各国を飛び回ってきたらしい。
ハワイでは、買出しとバカンスを兼ねていて、
その思いつきマスター(笑)はまだハワイに滞在中だそうだ。

「キラは先に帰国したってワケ?」

「…えぇ。」

表情を隠すかのように、やや俯きがちにキラが答えた。
そんなキラを、カワイイなぁと思う。
カウンタ越しのキラの腕を引っ張り、顔を近づけた。

「わっ!!!」

「ふーん、俺に逢いたくて、先に帰ってきたんなら嬉しいけど?」

「…もぅっ・・・解ってるなら言わないでくださいっ・・・///」

恥ずかしさに耐えられないと、閉じられた瞼は、やや震えていて。
滑らかな頬はピンク色に染まっている。
そのかわいい顔に掛かる髪を梳き、瞳を開けてと囁いた。
おずおずと開かれた、吸い込まれそうなほどキレイなアメジストを見つめる。



「キラ、好きだ。」




     「・・・僕も、です・・・・・っん…」



やや遅れて発せられたキラの返事をしかと聞いてから、
そのカワイイ唇を塞いだ。
口内に残っていたコーヒーの苦味は直ぐに消え、
コーヒーよりも癖になりそうな、その甘いキスに俺たちは酔いしれた。


店のドアにはCLOSEDの札を下げてある。
でも俺たち二人のドアは今、OPENになったのだ。





Fin



お題モノなのに、続き物となってしまいました(笑)
2話くらいで完結の予定が、文を上手くまとめられなくて全3話に。
この設定はずっと書きたかったんですが、
某ノベルサイトさんでも似たような設定をされていたので、ちょっと気が引け
てます。でもかなり楽しかったです。
とりあえず、ハッピーエンドで終われてよかったですvvv

2004・07.01




     













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