＜ 策士な貴方 -前編 ＞
「ちょっ…ム・ウさんっ！！」
「ん〜？」
狭い車内で、僕は１２歳も年上でありながら随分と子供っぽい恋人の悪戯な手から逃れようと必死でもがいている。
僕が止める声も全く気にせずに、彼の長い指はシャツの中に入り込んできた。
それを何とか止めようとしたけれど、彼の力に敵うはずも無く、
また、脇腹やらを撫でられてぞくっとする感覚に思うように力が入らない。
「やっ…ム、ムウさんっ！！はっ、早く帰らな・いとッ…ぁ・・・」
「大丈夫だって、心配するな。」
「んっ・・だ、だって・・明日・・お仕事、でしょうっ！！」
次から次へと襲ってくる彼の動きを何とか阻止しようと必死な僕に、
彼はさらっと言った。
「明日夜勤だから。」
「っ！！」
ムウさんのその返答に驚いている間にも、ムウさんの手は僕の体を這い回る。
僕のシャツのボタンはいつの間にやら全て外されていた。
このままでは完全にムウさんに流されてしまう。
そんな…こんなところでっ！！！
だめだ、ゼッタイにダメだ！いくら今が真夜中だって言ったって、誰かに見られるともわからないのにッ。
「ヤダっ！！…ぁ…ムウさんっ！！」
「コラ、いけない手だなー。」
口端をややあげて不敵な笑みを浮かべるムウさんに、嫌な予感を感じる。
何？と問う間もなく、僕の両手はムウさんの左手にいとも簡単に捕らえられてしまう。
「あっ・・・」
僕の動きを封じたムウさんは、空いた右手で、自分のネクタイをしゅるりと解き、
そして、僕の両手をヘッドレストへと縛り付けた。
「…ムウさぁん」
身動きできないので僕は涙目でやめてほしいと懇願したが、それは聞き届けられないようだ。
「んーいい格好だなぁ、キラ？」
ムウさんの視線に隈なく晒される僕の姿と言えば…シャツのボタンは全て外されていて、
ズボンのベルトもいつの間にやらなくなっていて。ジャケットはとっくに後部座席へと放り投げられている。
辛うじて首に掛かったネクタイは僕が身をよじるたびに胸を擦り、
そのむず痒さに声を上げれば、それはまたムウさんの行動に拍車をかけるものとなった。
「ムウさん…っほんとに…こんなとこでっ・・・・」
「”こんなところ”だからこそだろ？」
こんなところ-----ここは車内。真夜中のサービスエリアの駐車場なのだ。
* * * *
「泊まって行ったらいいのに。」
「そうだよ、泊まっていけよ。」
アスランもカガリも、さっきから何度もこのセリフを繰り返している。
僕もムウさんも本当は、このまま泊まって、もっと彼らとゆっくり一晩中話していたい。
今日は、アスランとカガリの新居引っ越し祝いで久々に皆で集まったのだ。
カガリとアスランの立場を考えればどんな豪邸かと思えば、
至ってフツーの一軒家だった。
ただここがオーブ国家の敷地内であることだけが、少し(？)普通じゃない、かな。
まるでお城のような議事堂や政府関連の建物が立ち並ぶそこに、
少し離れてぽつんと建っているアスランとカガリの家は白を基準とした非常にシンプルな家だった。
でもそれは二人にとてもピッタリだと思う。
シンプルとはいえ、やはり一国のお姫様の家だから普通の家よりは豪華だけれど、
イヤミを感じさせない建物で、とてもクリアでアットホームな感じがする。
そんなとても居心地の良い家の玄関で、僕たちはさっきからずっと別れを惜しんでいるのだ。
「うん、ごめんね。ムウさんが明日お仕事なんだよ。」
「そういうわけだ、すまんな。」
じゃあせめてキラだけでも、と言ったカガリに、お嬢チャン、それはないんじゃないのというムウさん。
そんな二人の会話に、あれから大分経つのにちっとも変わってないなぁと思わず噴出してしまったアスランと僕だ。
「次回は私から地球軍にお前の休暇を要請してやるからな。」
とんでもないワガママを言い出したカガリと、そんなはちゃめちゃな彼女の肩を優しそうに抱くアスランに
僕とムウさんは彼らの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
車内の時計を見れば、既に夜の１０時半。彼らに別れを告げたのが確か９時ごろだったから、
玄関先で１時間半も別れを惜しんでいたということになる。
僕たちの家はここから２５０マイルは離れていて、飛ばしても４時間は掛かるのだ。
カガリが国のジェット機で送ろうと言ってくれたが、それは流石に断った。
だって、僕たちは普通の一般市民なのだ。
軍基地の近くに住んではいて、ジェット機を基地内に着陸させることも出来るけれども、
いくらムウさんが大佐というすごい地位にいるからと言って私用でそんなことできるわけが無いし
その地位を利用してしようとも思わない。
そんなわけで僕たちは４時間の帰路を走っていて、その途中休憩のために
サービスエリアに立ち寄ったのだ。
