悩める青少年 13
新学期が始まって、2週間が経とうとしていた。
まだ暑い日が続いている為、未だに夏休み気分を引きずっている生徒もいるようだ。
私立サンライズ高等学園の体育祭まで、あと1週間。
今はその準備最優先のために、クラブ活動はおろか授業の時間さえも短縮されている。
生徒にとっては嬉しい特別日課だが、ある一人の生徒には非常に喜ばしくない状況であった。
ある一人の生徒 ―――――― キラ・ヤマトにとっては。
「体育祭まであと1週間だ、準備に携わっているものは気を引き締めてやれよ。
そうでないものも各自自主トレするよーに。絶対に優勝だからな!いいな!」
帰りのSHR。教卓の前で熱くなっているフラガ先生。
フラガ先生はこういうお祭り事がスキらしい。
特に今年は、教科別教師対抗リレーの選手に選ばれたとかで、張り切ってるんだ。
ライバルはバルトフェルド先生って言ってたけど(笑)
その時の先生って言ったら、もう僕よりもコドモみたいになってムキになってたもんなぁ。
そんなことを考えていたから、顔がにやけてしまいそうになって僕は慌てて現実に意識を引き戻した時。
「今日は職員会議があるから、会議が終わり次第教室を閉めるのでその前には教室から出るように。」
そうフラガ先生は言い、SHRは終了となる。
普段なら当番が教室の鍵を閉めるんだけど、今のこの時期は皆が忙しいから、先生が閉める事になったんだ。
SHRの終わりを告げられ、皆は一斉に各自の持ち場へと足を速める。
実行委員会やクラブに所属している生徒は、本当に忙しそうだ。
僕はどこにも入ってないから、慌てて教室を出る必要もない。
そう思い、まだざわついている教室を背に、グラウンドへと視線と移した。
グラウンドには競技の練習をする生徒であふれている。
あと、一週間。それさえ過ぎれば。
…先生とゆっくり過ごせる。
新学期が始まってから、あまりフラガ先生と話をしていない。
最期に二人で会ったのは夏休み最後の日曜だった。
授業に加え、体育祭の準備なんかで忙しいのは分かってる。
特別日課でせっかくのフラガ先生の授業も短縮されてるし。
フラガ先生といることの幸せを知ってしまった今、学校が早く終わったからと言って家に帰れば更に寂しさが募る。
学校に残る意味はないのだけれど、生徒の声やチャイムの音やそういった喧騒で僕は少しでも寂しさを忘れたいんだ。
体育祭なんかなければいいのにってずっと思ってた。
ただ今は、夏休み前とは違う理由でだけど。
…早くフラガ先生に逢いたい。
* * * *
…ラ、・・・・キラ、
キラ?おいキラってば。
「!!…あ、フラガ先生?」
「『あ。』じゃないぞ。誰かと思ったら…」
ちょっぴり苦笑交じりにフラガ先生が言った。
どうやら僕はいつの間にか眠ってしまったみたいで、会議が終わり教室を閉めに来たフラガ先生に起こされたのだ。
気づけばあたりはもう薄暗く、フラガ先生の顔をはっきり見ることも出来ない。
「ほら。もう帰るぞ。」
僕の髪を一撫でし、フラガ先生は帰り支度を僕に促す。
「…」
「??どうしたんだ、キラ?」
窓の戸締り確認をしに行こうとしていた先生は、帰り支度をしようとしない僕の方へと再び向きを戻した。
先生の意識が僕のほうへ戻ってきたことを狙って、僕は。
ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れる。
「っ!!オイ、キラ?!」
フラガ先生が驚くのも無理はないだろう。
僕が先生に抱きついたんだから。
ココは学校なのに。昼間は生徒でいっぱいの教室なのに。
ココがどこかなんて、僕は充分すぎるほど分かってる。
でも、そんなこともどうでもよくなってしまうくらいに、僕はフラガ先生に触れたかったんだ。
ココ最近ずっと、先生に触れるどころかろくに話もしてなくって。
側に近寄ったのだってプリントを受け取った時ぐらいだ。
「…フラガ先生。」
「ん?」
フラガ先生の腕が僕の背中にまわり、優しくさすってくれる。
僕も先生にしがみつく手に一層力を込めて、そして甘えた。
「…ずっと、逢いたかったです…」
ずっと逢いたかった。
先生の、すこしごつごつとした手で髪を撫でて欲しかった。
先生の胸に顔をうずめて、染み付いている微かな煙草の匂いを嗅ぎたかった。
それから、僕の名前を…
「キラ。」
「っ!?」
ずっと呼んで欲しかった僕の名を呼ばれ、顔を上げさせられる。
薄暗くて、先生の顔をはっきり見ることは出来ないけれども、
でも先生の体温を感じられるほど近くにいられることで、僕は充分だった。
先生の顔が段々と僕に近づいてきて、先生の呼吸さえも感じ取れる程の距離になった時、先生が言った。
「オレも。」
「っん…」
久しぶりに触れる先生の唇。
どんなに表現力のある言葉よりも、こうして触れ合うことの方がもっと良く分かる。
お互いの気持ちだけでなく、自分自身の気持ちも。
僕は、フラガ先生に対してこんなにも貪欲だったのかと、気づかされた。
たった2週間触れてなかっただけで、こんなに先生を欲していたなんて。
「…んっ・・」
「キラ・・・」
「っセン・・せ・・」
息継ぎの間に互いを呼び合い、更に口づけを続ける。
僕はただただ絡みつく先生の舌に応えるのが精一杯だった。
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ふいー。長いですね。っていうか本当はもっと長かったんですが、
どうもその先がなかなかうまく進んでくれなくって、このままだと当分UPできそうに無かったので、
せめてココまでだけでも!と思い、区切らせていただきました。
キラたんって結構寂しがり屋だったんですねー。あぁ早くアスランを登場させてもっと悩ませたいッ☆
ですが、あまりに現在と季節が離れすぎていて、どうも遅い筆が更にスピードダウンですよ(´д`;)
書き始めた頃は合ってたんだけどなぁ…(笑)
続く。
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