チョコより甘く
            苦い君。 (2)















なんなんだよっ!
鼻の下をでれーっとのばしちゃってさ。
そんなに女の子からのチョコが嬉しいんなら、そっちに乗り換えればいいじゃないかっ!
どうせボクなんかっ…













大尉から少佐へと昇進した男への文句を言いながら、
自室にたどり着いた。
僕自身も二等兵から少尉へと昇進し、トールたちとは離れて、士官用の個室を与えられたのだ。
少尉になってから、すこしばかりではあるが自由を手に入れることが出来た。
今までのように、皆と同じ居住区で過ごすのも嫌ではないけれども、
やはり一人になりたいときもある。特に戦闘のあとなんかは。
そんなとき、こんなロックの利く個室は本当にありがたい。
パスワードを入れて入る個室なんか今まで使ったことがなかったから、
ちょっぴり緊張しつつ、扉の横の画面にパスワードを打ち込むと
しゅっと、空気圧の抜ける音がし、すぐに扉が開かれた。
部屋に足を踏み入れると、センサーが人が入ったのを確認して扉が閉まる。


閉まった扉に背を預けて、一息ついた。
僕は何もかも忘れてしまおうと、ベッドに向かうところであることを思いつく。

「…少佐のバカ…」
もう一度だけ、悪態をついて、僕はソレを実行したあとベッドにもぐりこんだのだった。






*              *            *            *



「ホントに世話が焼けるなーアイツはv」
世話が焼けるといいつつ、勝手に世話を焼いているという方が、正しいということに
気づいていない28歳。
12も年の離れた恋人が背伸びして大人ぶる所もかわいいが、
自分の過去の女性話に嫉妬する、そんなコドモな所も愛おしくて仕方がない。
整備だなんて、嘘なのはバレバレだ。
どうせ、真っ暗な部屋で、ベッドにもぐりこんでるだろう。
当然俺が来ることもわかっているだろうけどな。
そんなことを考えているうちに、キラの部屋の前へたどり着いた。

扉の横の画面には、この部屋がロック状態であるランプが点灯している。
しかし俺にとっては、こんなロックは全く持って無意味だ。
こういう関係にあるわけだから、お互いのパスワードを知っているのは当たり前だ。
といっても、パスワードを持つのは士官だけだから、
キラがパスワードを持つようになってあまり時間は経っていない。
このパスワードを使って部屋に入るのは3回目くらいだ。
画面にパスワードを打ち込む。
「えーっと…」


パスワードを決めるとき、キラは俺に相談をして来たのだ。


*       *      *     *






「フラガ少佐は、どうしてパスワードを”ZERO”にしたんですか?」
部屋のベッドに腰を掛け、ココアをふーふーと覚ましながらキラが問いかけてきた。
猫舌なキラにはココアが少し熱すぎたらしい。

「ん?何でもよかったんだがな、特に思いつかなかったし、自分の愛機でいいやってな感じで。」
「あ。あの少佐にしか扱えないって言う…」
「俺にしか扱えないというよりは、俺くらいしか好き好んで扱わない、と言うほうが正しいかもナ。」
キラの言葉に照れくささを感じ、少し自嘲気味に答える。
軍が大げさに”エンディミオンの鷹”なんていう名前を付けるから、皆が誤解するのだ。
あの機体は扱いにくくて万人向けじゃない上に、コストがかかりすぎるのだ。
それ故にあの機体を生産するのは効率が悪いということで、パイロットも居ないだけなのだ。

「アハハ。でも、”ZERO”にしたら、皆にバレやすくありません?」
「そーかもなー。でも、来ないでしょ?俺の部屋なんか。なんにもないし。」
突然AAに乗艦することになったから、元々私物もないしね、と付け加える。
が、キラの顔がソレは違うという表情になった。

「…あるのはイカガワシイ本くらいですよね…」
「いーだろ、別に。で、キラは何にすんの?」
イタイ所を突かれ、俺は話を元に戻した。

「何にしようか考えてるんですけど、なんだかどれがいいのかわからなくなってきちゃって…」
「そーだなー人それぞれだけど、誕生日にしたり、好きな言葉とかモノとか…」

膝に乗せているマグカップの中をじーっと見つめしばし考え中のキラ。
なにもパスワードごときでそんなに悩まなくてもなーと思いつつも、
そんなことでも俺に相談してきてくれたのは物凄く嬉しいのだ。




「好きなモノ…、んー…僕コレに決めました!」




*     *     *     *


≪T・O・L・L・I・Y≫


キラの好きなモノ--------それは親友に貰ったという緑色の機械鳥。
その名をキラはパスワードにしたのだ。
しかし…

ビーッとエラー音が発せられる。
押し間違えたか?と再び入れてみたが、それは何度やってもエラー音で返された。

「!…もしやパスワード変えやがったな…」

まさかこう来るとは流石の俺も予想してなかった。
しかし、俺は不可能を可能にしちゃうんだぜ?と一人ごとを言う、少し危ない28歳。
思い当たるものをいくつか入れてみたが、どれもダメだった。

「誕生日もダメ、機体番号でもダメ、キラのスリーサイズでもダメ…んー残るのは…」
好きなモノ、キラの好きなモノ…
一つ、思い当たる。
いや、元々思いついていたのだが、キラの性格から考えるとコレを入れる可能性はゼロに等しくて。
それでも、最後の一つに望みを託し、ソレを入力してみた。

ピピッ。

パスワード正解の合図だ。


…なんで、コイツはこんなカワイイ事をするのだろう。
いつも、いつも、これ以上キラを好きになるのは無理だという位、
キラを好きでたまらないのに、その容量はどんどん大きくなり、そしていつも飽和状態だ。

開かれた扉の先は、予想通り真っ暗な部屋で、その中にはキラで膨らんだベッドが見えた。
俺が入ってきたことに気づいて、そのシーツがもぞりと動いたのが分かる。
扉が閉まり、俺はそのパスワードで再び扉にロックをかけた。



続く。
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間に合わなかったー(ToT)
ごめんなさいm(_ _)m
とりあえずここまでUPします。
明日は出かけるので続きはその後…ということで。
でも季節モノなので出来るだけ早く仕上げますっ!


      

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